地域おこし協力隊のリアルとホンネ!任期後のビジョンを描いた3年間の過ごし方【地域おこし協力隊 小林力さん】
2022.07.27
  • ケンジンインタビュー

地域協力活動を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組みである地域おこし協力隊。実際に協力隊として活動されている方はどのような生活をされているのでしょうか。地域おこし協力隊の暮らしや仕事のリアルを、兵庫県洲本市地域おこし協力隊の小林力さんにお伺いしました。

新潟県新潟市出身。大学卒業後、東京のIT企業に入社。システムエンジニアとして7年間システム開発やコンサルティングに携わる。子育てをきっかけに地方移住を決意し、会社を退職して兵庫県の淡路島に家族で移住。現在は、地域おこし協力隊として古民家の改修や地域の産業の支援・個人でライターなどの仕事をしながら、地方で新たなライフスタイルに挑戦している。その他、地方移住や地域おこし協力隊の経験をブログ「移住後の働き方戦略室」やSNSで発信中。
移住後の働き方戦略室:iju-kobayashike.com/profile-kobadanna/

地域おこし協力隊のリアルなお金事情

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

どういう経緯で地域おこし協力隊になられたのですか?

小林さんのアイコン画像小林さん

子どもが生まれたのがきっかけですね。2019年の9月に第一子が産まれまして、子どもとの時間を過ごしていくうちに今後の子育ての環境を考えるに至りました。
当時は、僕も妻も仕事が手一杯だったんですよね。だから都内に暮らしながら、仕事中心の生活の中で子育てをしていくことが、夫婦にとってはベストではないみたいな、そんな感覚がありました。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

なるほど。

小林さんのアイコン画像小林さん

妻も僕も地方出身だったので、自分の育った環境に近いところでの子育てイメージがありました。妻の実家が兵庫県にあったので、淡路島に何度か旅行に行ったことがあったんですよね。そこから淡路島への移住を考え始めました。
僕の場合は移住に伴って転職が伴ってしまう状況でしたので、なるべく収入が安定した状態で移住ができる方法を模索していた時に「地域おこし協力隊」の存在に行きついたんです。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

やっぱり「移住後のお仕事をどうするか」というのが最初の問題ですよね。地方移住するとなったら年収が下がることは、けっこう懸念されていましたか?

小林さんのアイコン画像小林さん

そうですね。当時の自分の年収を失うのは、とても不安でした。それに、移住した先で本当に生計を維持できるのかがもっと不安でした

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

移住に際して経済的な面で大きな不安があったと思いますが、移住を決断する上でどう不安を克服したのですか?

小林さんのアイコン画像小林さん

自分の今の生活収支を洗い出したり、移住後の想定収支の仮説を立てたりしましたね。将来的にこれくらい稼げれば生計が立てられそうとか、地域おこし協力隊の報酬があったら、不足分は貯蓄を切り崩せば直近3年間はやっていけるんじゃないか、というような感じです。具体的に試算をしてみて、移住に踏み切りました。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

1年経過して、今の収入や出費は思っていた通りにいってますか?

小林さんのアイコン画像小林さん

1年目は想定していたより収入と支出のギャップがありました。特に、社会保険や税金面の負担が大きかったですね。私の場合は「個人事業主型」の地域おこし協力隊になったので、健康保険料が労使折半だった会社員時代よりも、保険料の負担が多くなりました。それに、思っていたよりも昨年の所得に対する住民税が大きかったこともあり、精神的に辛かったですね。収支がマイナス20万円になる月が続いていくと貯金がすり減っていく感覚がありました。このままで大丈夫かな?と思うことは正直ありましたね。これがずっと続いたらやばいぞ、みたいな。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

大変そう…

小林さんのアイコン画像小林さん

2年目になってからは社会保険の大きな負担が、収入と相応になってきたので落ち着きました。とりあえず、一安心という気持ちです。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

お話を伺う中で、協力隊の収入だけでやっていくのは厳しいという印象を受けましたが、副業はどういうことをされているんですか?

小林さんのアイコン画像小林さん

淡路島は夏季に宿泊関係のお仕事が繁忙期になるので、知り合いのゲストハウスでバイトさせてもらったり、玉ねぎの収穫のバイトをしたりしました。このような季節ごとの労働を最初はやっていましたが、今後も継続してやるには不安定ですし、収入としては乏しいものになります。だから「地域によって単価の差がない仕事」をしようと思いました。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

「地域によって単価の差がない仕事」とは?

小林さんのアイコン画像小林さん

僕が挑戦したのはWebライティングです。今はWebライターのお仕事で月5万から7万円くらいの副業収入があります。移住後に、ゼロから始めたお仕事ですね。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

最初からそのくらい収入ってあったんですか?

小林さんのアイコン画像小林さん

いや、初月のライティングのお仕事の収入は、3,094円でした(笑)。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

えー。なんか、初めてのアルバイトぐらいの収入から始まったんですね。

小林さんのアイコン画像小林さん

副業を始めた月には、ライターとは別に「法人向け資料制作代行」のお仕事も獲得できたので、その収入が7,000円ぐらいでした。2つ合わせると、初月の副業収入はだいたい10,000円ぐらいですかね。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

初月10,000円から始まって、今に至るまで伸び続けているんですね!

小林さんのアイコン画像小林さん

2カ月目は本格的にライティングの勉強をしていたのでお仕事は受けず、営業だけ。合間に、法人向け資料制作をして16,000円でした。3カ月目はライティングで39,000円、4カ月目はライティング70,000円と、今のところ確かに右肩上がりですね。でもちょっとしんどくなって、休んだりもするんですけど…。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

自分の状況に応じてちょっと力入れて頑張ったり抑えたりできるところは、自分のペースでできてすごく羨ましいです。

小林さんのアイコン画像小林さん

子どもたちがいると大変な時期もあるので、自分のペースで仕事ができるのは個人事業主のありがたいところですね。

地域おこし協力隊は信頼がある状態から地域に入れる

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

地域おこし協力隊という肩書があるおかげで地域の中に入り込みやすい、繋がりやすいっていうのはやっぱりありますか?

小林さんのアイコン画像小林さん

それはもうめちゃくちゃありますね。日頃から地域の方と接している自治体職員の方は、住民の方から信頼されていることが多いんですよね。自治体職員の方と近い立場である「地域おこし協力隊」として地域に入ることで、何者でもない人に比べて、ある意味「信頼を借りた状態」で地域に入ることができます。
これって、すごいありがたいことだと思うんですよね。もちろんその後の振る舞いによっては、それが裏目に出ちゃうことがあるかもしれないです。でも、信頼のある方の紹介で地域に入っていけるって、非常に素晴らしいことだなと思いますよ。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

地域おこし協力隊の制度を活用するメリットですね!地域の皆さんとの連携もうまくいきそう!

小林さんのアイコン画像小林さん

僕自身も地域おこし協力隊の恩恵を受けながらうまくやっているつもりではあるんですが、でもやっぱり体力はいりますね。けっこう頑張らないと人って信用してくれないので。「目に見える結果を出す」とか「思いきり時間を投下する」とか、一定の行動量が必要になってきます。そこまでに達しない状況でサボったり、諦めたりしてしまうと信頼はついてこないと感じますね。
そうなってしまうと地域おこし協力隊としての活動や、移住後の生活を豊かにする「地域の助け合いの輪」に入ることができなくなってしまうので、思いきり突き抜ける必要はあるかなと思いますね。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

信頼関係を築くことが大事ってことですね!

小林さんのアイコン画像小林さん

本当、そう感じます。地域の方は「人」をよく見られているなと思いますね。地域おこし協力隊も成果を出すためにスキルや一定の努力量は当然必要なんですけど、あくまで信頼の上に成り立っているんです。
地域の方との信頼の上に、地域おこし協力隊のスキルや努力があって、その結果成果が実る。だから、まずは人柄をよく見られているという点を意識するのがすごく大事かなと思いますね

卒業後のビジョンだけで地域おこし協力隊での取り組み方が変わる

小林さんのアイコン画像小林さん

地域おこし協力隊って任期が3年なんですよね。任期が延長されることもありません。地域おこし協力隊卒業後に「定住できるだけの自活力をつける」ための期間として長いか短いかを言うと、個人的には短いのかなあと思っているんですよね。
・1年目はその地域を知って慣れていく
・2年目は地域と馴染んで本格的に活動していく
・3年目は自分の今後の食いぶちを作っていく
こんな流れで地域おこし協力隊の3年間を過ごしていきましょう、というのをよく聞きます。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

へぇ〜、そうなんですね。

小林さんのアイコン画像小林さん

けど、個人的には定住するための食いぶちを作っていく時に、準備期間が最後の3年目だけだと短いなと思うんです
地域おこし協力隊は、任期終了後のビジョンがある人が「報酬がいただける3年間を失敗してもやり直せる期間」として捉えたり、地域の課題解決を通して「スキルアップや人脈作り、地域に貢献していくことで得た信頼」を活用して起業したり、ゴールを描いた状態で取り組むのが僕は堅実かなと思ったんですよね。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

淡路島に移住すると決めた段階で、3年後の任期が終わった後やその後どういうキャリアをどう歩んでいくのか、ビジョンは考えられていたんですか?

小林さんのアイコン画像小林さん

偉そうに語った僕もそこまでしっかりあるわけじゃないんですけど、個人の看板で働ける人材がゴールにありました。地域おこし協力隊になって何かをするという目的ではなくて、子どもたちとの移住後の生活は、時間に融通が利かせられる働き方を目指していたんですよね。
そのために個人で仕事をしていくという働き方は、絶対に実現させたいなと思っていました。「個人で働いていく」というゴールがあったので、その準備を3年間でやっていこうみたいな感じですね。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

今の卒業後のビジョンは具体的になってきていますか?

小林さんのアイコン画像小林さん

そうですね…今はライターをメインに月7万円くらいは副業でも稼げるような状況にはなっているので、「個人で働く力」は少しずつついているのかな、と感じています。ライターとしてももっとスキルアップをして、しっかり生計を立て、定住できるようにしたいと思っています。

また、自分がスキルアップしていくにあたって、お世話になっている地域の方や事業者の方たちの力にもなりたいと思うようになりました。例えば、Web集客や情報発信。「文章を書く」力は、地域にある飲食店の良さや地域の魅力を発信するために、なくてはならないスキルです。
自分のスキルを高めていくことで、助けてもらっている地域の方々の役に立てるようになりたいですね。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

地域おこし協力隊になって1年2カ月たった今だからこそ感じてることってありますか?

小林さんのアイコン画像小林さん

移住に関するお金の不安にはしっかり向き合った方が良い、ということですね。
移住前は不安もあったんですが、割と移住に対して希望とかわくわくとか、新しい生活に胸膨らませて飛び込んだ感じがあります。でもやっぱり今振り返ってみても、お金の不安はついて回るんですよね。生計を維持していくことの大変さは、今も大きな不安の1つです。パートナーがいる方や子連れの方だったらなおさらなんですけど、お金に対するリアリティやシビアさは、もう少し持っていてもよかったかなと。

田原ゆうたのアイコン画像田原ゆうた

やっぱりそこが大事ですよね。

小林さんのアイコン画像小林さん

移住する前に準備できることって当然あったはずなんですよね。今は移住した身だからこそ、良い話も悪い話も含めて現実的な話をお伝えしていく必要があるかなって思っています。今後ブログメディアの運営や情報発信では、移住後の仕事やお金面など、現実をシビアに捉えて進めた方が良いよって伝えるスタンスになるんだろうなと思いますね。

〜ケンジンからの学び〜
地域おこし協力隊に入るなら、ゴールや卒業後のビジョンを見据えたうえで、得た信頼を上手に活用していく。お金にシビアな側面もあるが、地域に入る最初の一歩としてはとても魅力的な取り組み。でも地域おこし協力隊という傘に甘えすぎないで、自分で信頼関係を築いていくことも忘れずに。

  • 3年間で130名の新規雇用を生んだ日南マーケティング専門官が…
    2022.05.18
    マーケティング宮崎県日南市
  • 「自分で何者であるかを明確にする」地域を巻き込みやりたいこと…
    2022.05.17
    IT企業熊本
  • 「ないものは作ればいい」全国8箇所移住してきた経営者が語る、…
    2022.05.28
    北海道経営者
  • 人口約9,000人の町で新たな事業を立ち上げることの苦悩と未…
    2022.12.12
Top