戦略的に地域で仕事を獲得するコツは「価値観を使い分けること」【シビレ株式会社 佐藤陽さん】
2022.05.30
  • ケンジンインタビュー

佐藤さんは、地域活性化事業に取り組むシビレ株式会社のCEO。学生時代の経験から人材育成に携わる仕事をしたいと事業会社を経て独立しましたが、地域の方との価値観の違いに苦しんだこともあったそう。佐藤さんはどのようにしてその状況を乗り越えてきたのか、今回はそのコツを話していただきました。

佐藤 陽さん
シビレ株式会社代表取締役CEO。
2013年リクルート入社。新規事業開発プログラムの企画、運営に携わったのち、新規事業の新拠点立ち上げに伴い、仙台に赴任。東北6県の大学・高校の経営課題解決に伴走し、社内グランプリ受賞。数多くの地方自治体との対話を通じて、人づくりは魅力的に地域づくりに直結すると感じ、官民連携事業など数多くの地方創生事業を手がける。2017年南三陸町教育魅力化専門官に就任。2020年11月より現職。兵庫県西宮市出身。

地域に入り込んで歴史や価値観を理解する

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

ぼくは31歳で、生まれは兵庫県の西宮市っていうところの生まれなんですね。生まれ育った西宮市っていうのは大阪まで15分、神戸まで15分っていうすごい立地のいい都市で、50万人弱の都市なんですね。50万人って仙台の半分ぐらいなんで結構人口がたくさんいる街なんですよ。いわゆるベットタウンのような街で大阪とか神戸とかに仕事で行ってる人たちが住むようなところでしたね。ぼくが4歳の年に阪神淡路大震災で被災したんですよ。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

そうだったんですね。当時の様子はニュースでみたことがあります。

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

でも、当時4歳で幼かったのと、阪神大震災がいわゆる都市で震災が起こったので、見た目の復興って凄い早かったんですよね。ぼくがたぶん小学校に入るときには、目に見える景色としては分からないぐらい復興していて。学生時代はあんまり震災っていう記憶との接点はむしろ無い状態で大人になった。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

今は仙台にお住まいだと思うんですが、何かきっかけとかってあったんですか?

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

大学2年生の時、東日本大震災があったんですよ。津波の映像を見ていて、その時にハッとしたんですよね。その映像を見たときに、まず大変なことが起こっているっていう感情と同時に、自分の被災とか、自分の地域の震災のこととか復興のこととかっていうのを全く知らないことに気づいたんですよ。当時、大学の野球部に所属していて、まずはできることをしようということで、野球部で震災のボランティアに行ったりみたいなことをしていました。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

なるほどー、それが東北との最初の縁だったんですね。
その後、今の仕事にどう繋がっていくんですか??

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

人に関わる仕事がしたいなって漠然と思っていたので、将来的にそういうことを仕事としてやりたいと。ただ、当時のぼくはそれをどうやって仕事にするかっていうイメージがまったくなかったので、それをしっかり仕事にするために、いろんな経験を積みたいなという思いで一旦就職しようっていうことを決めました。ただ、できるだけ早く成長ができるような会社に行きたいなということで、リクルートという会社を選んだ。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

確かにリクルートの人って起業する人が多いですよね!

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

リクルートで過ごした時間は本当にいい経験で。キレイ事じゃなくて、ビジネスっていう力を使って社会を良くしていくっていうことが知れた時間だった。でも、大企業にいたからこそできることと、大企業だから動きづらいっていうのは当然あって。いろんな地域を訪れる中で、地域をひとくくりにしてはいけないなと。歴史が違えば文化が全然違うし、当然、価値観も違う。そこにしっかり入り込んでやっていかないと本当の意味で地域を良くできないんだろうなーっていうのを、大手企業で働いたからこそ感じたんですよね。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

それで、起業したんですか、、?

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

当時26歳くらいだったと思うんですけど、30歳まで自分の感じる問題意識に向き合ってみて、ダメだったらやり直せるかな、ぐらいの気持ちで退職して起業しました。なので、起業したいというより、自分の感じたモヤモヤや問題を解決する手段として起業したって感じですね。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

なるほど〜。
実際に地方で起業されてどうでしたか?

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

例えば東京で人口1,400万の中の1人のぼくの力って本当に無力だなって思ったんだけど、人口1万人くらいしかいない小さい地域の中の1人って、比率が1,000倍違うじゃないですか。自分は1万分の1の中で自分の持っている力を発揮したいと思って。結果として、東京じゃなくて、地方で起業しようっていう選択肢を取りました。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

ふむふむ、勉強になります。

価値観に馴染むのではなく使い分ける

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

ぼく自身は最初、南三陸町っていう人口12,000人ぐらいの町で活動をはじめました。リクルートで培ったいろんな考え方とかスキルを元に、自分がこの町を良くしていこうって思ってたんですよ。自分の力で良くしていこうと思って。結果全然良くできなくて、本当に良くできなくて。本当にすべてが空回りしていていることに自分では気付いてたんですよ。自治体、地域の住民とのかかわり方もそうだし、すべてが自分の思っているようにいかないんですよね。理屈では正しい。でもうまくいかない。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

理屈では正しいのに、うまくいかない?
(どういうことだろう。。)

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

昔の同僚に愚痴混じりで話してると、ぼくの言ってることをすごく理解してくれるんですよ。でも、地域では全然理解されないんですよ。理屈っていうよりは、センスというか、価値観の違いみたいなところがめちゃくちゃ大きいんじゃないかなってまず思ったんですよね。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

理屈ではなく、価値観??
(全然わからなくなってきたぞ。。)

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

論理的に考えることが正義だと思ってたんですね。問題が起こっているボトルネックとか、問題を解決することによる利益をベースに考えてたんです。そんな思考だから、地域の人が普遍的に大切にしている、伝統とか文化に気がつかなかったんですよ。その価値観の違いに気がついたときにハッとしましたね。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

価値観の違いは乗り越えられるんですか??

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

ある日付箋に、ぼくの考えている価値観は黄色、地域の人の考えている価値観はピンクで書き出してたんですよ。そしたら、どっちも良いんです。否定されている、噛み合わないと思ってたけど、地方の人の「効率よりも効果を大事にする」「利益よりも価値を大事にする」「論理よりもつながりを大事にする」「新しさよりも伝統を大事にする」とか。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

たしかに、あったかい感じがします!

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

ぼくらはとにかく「早く成果を」みたいなことを言うんだけど、地域の人は「深く根を張るっていうことが大事です」とか。これはこれで良いこと言ってるなぁって思ってきて。町を良くしたいっていう思いは、地域の人たちも持ってるんだよなあって思った時に、価値観を使い分けることができたら最強かもって。馴染むのではなく使い分ける。地域の人の言葉の裏側にある価値観っていうのをとにかく頭で理解するってことを最初にやりましたね。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

価値観の使い分け、すごく難しそうです。。

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

言葉で言うと、なんかすごいキレイな話に聞こえちゃうかもしれないんだけど、そこに至るまでは本当に葛藤もあったし、意味が分かんなかったよね。理屈ではこうでしょうっていうことが、「理屈ではそうなんだけどさ」って言われる。

たぶんみんなもこの話聞いて、それはそうだよねって思いながらも、でもなんかなって思うところもあると思う。それが理解できなかったんですよ、全く。でも相手の価値観になって考えてみると、意外と目指したいゴールってもしかしたら一緒かもしれない。

だから自分がそこに歩み寄っていくことで大きな壁が解決されるのかもなぁって思うようになりましたね。都会で育ったぼくからしたら全く想像もつかなかった価値観。今はもう完全にそこが理解できて、ちゃんと使い分けができる。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

なるほど〜。相手の価値観を理解できるから寄り添える。「相手にとって一番良い方法はなんだろう?」と考え、自分の価値観も織り交ぜながら提案するって感じですね〜。

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

そうだね。地域を良くしたいっていうのは、結局ぼくのエゴでしかないなって本当に思ってて。誰かのために何かすることが仕事の原点だと思うんだけど、結局それって自分がそうしたいっていうエゴでしかないよなあって思っていて。そのエゴを押し付けてたんだろうなって思ったんですよ。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

エゴって思うと辛くないですか?

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

結局自分のエゴであっても、それをやることによって、その地域がよくなるんじゃないかっていうことは、本当に信じて思っていたから、それを実現するために、価値観を使い分けるみたいなことは全く苦じゃなかったですよね。

東京みたいにいろんな地域出身の人が住んでる場所って、たぶん少数ですよね。地方って、そこに生まれ育ってずっといるみたいな人が大半で、当然価値観のバリエーションも少ない。少数のバリエーションの価値観しかないから、その価値観が、大きく見えちゃうっていうだけの話なんだなぁみたいなことにも後々気づきましたね。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

ほえ〜。なんかすごいな〜(とりあえずメモしとこ)。

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

結局、自分の価値観で他者の価値観を変えるってことはやっぱりできないんですよね。ただ、大前提として、物事を良くしたいっていう目的のためなら手段は容易に変えても良いって思っているタイプだったので、価値観を使い分けることには何の抵抗もありませんでした。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

具体的に価値観の使い分けって、どんな感じでやったんですかー?

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

具体的な話をすると、資料を作る時も、相手の価値観に沿ったような言葉を選んだり。都会の価値観で持っている「効率的」「短期的」「結果」とか、いわゆる論理的思考が見え隠れするような言葉使いは一切しない。

言葉が悪いけど、田舎センスみたいな「長期的」「目的」「価値」みたいな言葉を使いながらも、でも結局「ぼくたちが目指したい事っていうのはこういうことです」っていうのも分かりやすく説明することを意識しました。いわゆる経済合理性みたいなことが出ないような言葉で資料を作ったりとか。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

なるほど〜、日常の小さいところから意識したんですね〜。

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

あとは、地域の人あったかいって言われたりする所以って、一度受け入れてくれたら本当に信頼してくれるんですよね。人として受け入れられるまで、自分の言いたい表現みたいなのはあまりしないように意識しましたね。人によっては窮屈かもしれないんですけど、ぼくは目的のためだったら全然辛くはなかった。その結果、どんどん信頼されていくんですけど。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

本当に、目的がブレないんですね。。すごい…

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

でも、受け入れられるだけじゃダメで。受け入れられると信頼は違うなって。受け入れられたら次は信頼です。そこから、自分の価値観とかを少しずつ出していきながら伝える。すると以前の自分と言ってることは一緒なんだけど、受け入れられてるって土壌があるだけでみんな聞いてくれる。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

だから、馴染むんじゃなくて使い分けなんですね!

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

環境で人の価値観って変わっていくじゃないですか。ぼく自身の価値観もはじめて地域に来た時と大きく変わってきてるから、自然に地方の人の価値観も自分に入って来つつあるのかなっていう風に思いますね。

価値観を変化させる

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

地方に来る前は、経済合理性しか考えてなかったですよ。とにかく早く成果を出して、勝負に勝つ。そこがやっぱ価値観のベースにあったので、短期的に成果を出すっていうことが当たり前だろうっていう。むしろ「そうやってない奴はダメなんだ!」くらい思ってましたね。今は、「そういう考えをする人がいてもいいよね」っていう感じに思ってますね。過去の自分は1パターンの価値観しかなかったので。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

今の佐藤さんからは想像がつかない。。

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

今は、目的達成のために短期的にスピードを上げてやることが大事なのであれば、それをしたらいいかなって思うんですけど、ただそうじゃない局面っていうのもあるよねっていう。以前より目的をより大事にするようになったと思いますね。そういった意味では、都会センスのときは、とにかく短期的な利益って言ってたのが、やっぱり目的とか価値みたいなところをすごい大事にするような人格になってるから、地域に関わって価値観が変わっていってるんだろうなって思いますね。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

自然と変化するんですね〜。
最初の方とかめちゃめちゃキツくないですか?

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

最初とか、友達失うんじゃないかってくらい空回りして。

例えば、あるプロジェクトに関わったときの話で、行政の理屈としては結構難しい取り組みだったんですよね。理屈としては難しいんだけど、問題意識を持っていて、なんとかしましょうって話だったんですよね。
実際難しかったのは解決方法ではなくて、人間的な折り合いみたいな。ぼくは「今これだけ問題があるんだから、どうにかしないと」って言う理屈でおしてたんですよ。でも、めちゃくちゃ反発があるんですよ。ぼくの感情としては、「この人たちなんもわかってない!」みたいな感じだったんです。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

壮絶だ。。

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

怒鳴りあいの喧嘩したりとか。もうなんか、1対5ぐらいで囲まれて罵声浴びせられたりとか、そんなこともした。当時は「自分が地域を変えてやる」って思ってたから、もうとにかく「自分が先頭に立ってやってるんだ、あんた達できてないんだから言うことを聞いてくださいよ」ぐらいの感じだった。今は最初とは全然違う、黒子に徹するみたいな。ぼくのことを丸くなったと言う人もいるんだけど、人格はあんまり変わっていなくて。むしろそういうことをやった方が早く良くなるし、結果として早く成果が出るんじゃないかなっていうのに気づきましたね。

ブチ抜けるとはブレない想いを持つこと

中本かりんのアイコン画像中本かりん

ブチ抜けるってそういうことか〜。
「周りを気にせずに好きなことをやるぞ!」みたいなイメージでいたけど、実際はそうではなかったんですね。

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

何をブチ抜けるかという話なのかなと思ってて。多分「ブチ抜ける」ってワードだけ聞くと、なんか「自分の信念」みたいな感じに受け取られるかもしれないけど、ぼくはたぶん地域の人よりも、地域を良くするっていう思いを誰よりも持つっていうことだと思っていて

中本かりんのアイコン画像中本かりん

地域の人よりも、地域を良くするって思う??

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

結局ぶつかるのって手段だから。目的が同じなら別に手段でぶつかったって何も思わないし、今もいろんな自治体と話してても、やり方で意見が噛み合わないことってあるんですよ。でも、目的を強く持ってると、手段を変えることに抵抗はなくなりましたね。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

目的が同じだから、ぶつかっても怖くないってことですか??

佐藤さんのアイコン画像佐藤さん

そうそう。とはいえ「ぼくは絶対こうやった方がいいと思いますよ」っていうのは、強く伝えるっていうのは決めてるから。「絶対こうやった方が良い」って思って伝える時は信頼関係があるから、「佐藤陽がここまで言うんだったらやってみようよ」ってことが多い。だからこそ、やっぱり信頼を作っていくってのはすごく大事だよね。

中本かりんのアイコン画像中本かりん

わあ〜、なんか良い感じのお話聞けた〜!
田原くんにもシェアしないと〜!

~ケンジンからの学び~
地域の人との価値観のギャップを埋めるには、価値観に馴染むのではなく価値観を使い分けよう。ただし、ブレない目的を持つことは大切。その目的のために戦略的に価値観を使い分けて仕事を獲得しよう。

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